アジャイルとリーン・スタートアップを組み合わせた開発プロセス ~第3回 ライフサイクルとOMTM~
前回の記事では「事業計画とのすり合わせ」のステップについて記載しました。
今回の記事も、引き続き「事業計画とのすり合わせ」のステップについて説明しています。
TL;DR
- 顧客のライフサイクルを書き出し、課題の解像度を上げましょう
- サービスの最重要指標 ( One Metric That Matters ) を定めましょう
- ( Lean StartupにおけるOMTMとKGIの関連付け等について、まだまだ理解が整理できていないので詳しい人教えて欲しい )
ライフサイクル
改善する前に現在のサービスの見える化をしましょう。 見える化をする上で、Lean Analyticsにはいくつかの方法を提供してくれています。 今回は、よくありそうなECサイトを例に見てみます。
上記の図の各ステップごとに、必要な数値をすべて出していきましょう。 まずはユーザー全体でデータを出してみましょう。 その後、もし分析可能なリソースがあれば、ユーザーをセグメントごとに分けて、 セグメントごとに上記のデータを出してみることをおすすめします。 ユーザーセグメントは、インセプションデッキに記載されたペルソナを元に下記のように4つに分割すると良いかと思います。
- ターゲットユーザーかつ、LTV > CAC を満たすユーザー
- ターゲットユーザーかつ、LTV > CAC を満たさないユーザー
- ターゲットユーザーではなく、LTV > CAC を満たすユーザー
- ターゲットユーザーではなく、LTV > CAC を満たさないユーザー
インセプションデッキを元にターゲットユーザーを設定するのは、誤った最適化を防ぐためです。 誤った最適化について説明をするために、またフリマアプリを例にします。 フリマアプリにおいて、最も購入してくれるユーザーの中には、おそらく「転売」を目的にしている人もいるでしょう。 もし、ここでターゲットユーザーをインセプションデッキから決めずに、 トラクション最適で進めてしまった場合、「転売」最適のサービスに誘導されるリスクがあります。 その結果、サービスは誤った方向に進んで行ってしまい、貴重な時間を無駄にしてしまいます。 出品者ユーザーのニーズを満たすために、一時的に「転売」ユーザーの力を借りるという選択をすることもあるでしょう。 ただし、 そういった成長は不健全なものであることは認識しておく必要があります。
ライフサイクルを書き出すと、どのセグメントのユーザーが、どこでチャーンしているのかを整理することができます。 これにより、プロダクトの課題を可視化することができるようになるでしょう。 プロダクトづくりは1,2番のセグメントのユーザーに対して注力します。 3番のセグメントのユーザーについては、そのセグメントのユーザーが1,2番のセグメントにいるユーザーに悪い影響を与えない限りにおいて、静観することになるでしょう。 ただし、ターゲットユーザーに悪い影響を与える場合は、排除するという選択肢を取る可能性もあります。
最重要指標 ( OMTM: One Metric That Matters )
スタートアップの成功の鍵は、本当の意味でフォーカスすること、それを持続させるための規律を持つこと。 フォーカスしていないのに成功したとすれば、それは単なる偶然にすぎない。 あてもなくさまよい、膨大な時間をムダにして、苦痛や徒労を経験した末の成功だ。 スタートアップの成功に秘訣があるとすれば、それは「フォーカス」である。 「Lean Analytics 6章 最重要指標の規律」
私はこれまで、プロダクトを成長させるために数多くのKPIを設定する企業を見てきました。 PMFitを達成し、十分に大きくなった企業においては、数多くのKPIを設定することもあるでしょう。 しかしながら、1=>10, 10 => 100 フェーズの企業においては、 多くのKPIを設定することは能力の分散や局所最適化に繋がり、デメリットが大きいと考えています。 例えば下記資料においては、CPAに責任を持つ人と、LTVに責任を持つ人が異なったため、 エロバナーが量産されたという失敗が記載されています。
www.slideshare.net
似たような失敗は枚挙に暇がありません。 例えば、営業は目標達成のために質の悪い顧客を大量に獲得してしまい、CSの対応コストが増加。 そして売上は上がらずにコストだけがかさみ、プロダクトの利益を奪ってしまう。 または、マーケターがCPAを下げるために本来のターゲット層とは全く異なる層に対してアプローチをする広告を出し、 全く異なる層のユーザーがプロダクトに広がり、既存の優良ユーザーがチャーンしてしまう。 KPIを個別に設定した結果、個別のKPI自体は上昇していても全体としては大きな損失を出してしまうという失敗はよくあることです。
このような問題を避けるために、チーム全体で最重要指標 (OMTM) を定めることが重要です。 OMTMは、現在のステージや投資家からの期待で定まります。下記資料のP87にサービスの性質と、ステージに合わせて見るべきOMTMの例が記載されています。
例えば、ECサービスにおいて現在のステージを「定着」とした場合、OMTMは「CV数」と「ロイヤリティ: 90日以内に戻ってくる購入者の割合」の2つのどちらかになります。 もちろん、プロダクトの状況によってはこれらの指標が適切でないケースがあります。 もしも適切な指標が見当たらなければ、自分たちで設計しましょう。 定着フェーズのゴールは、「顧客にとって必要不可欠である、定期的に正しく利用される機能の提供」です。 自分たちで指標を用意する場合、そのゴールを計測することができる指標であるかを注意しましょう。
さて、漠然と「このOMTMを追う」と決まったとしても、具体的なアクションはまだ浮かんで来ないでしょう。 次の記事では、OMTMを関係各所と協力しながらアクションに落とし込む方法について、記載させていただきます。
まとめ
- 前回の記事において、投資家の期待、現在のフェーズに関する定量的な裏付けをしました
- 今回の記事において、プロダクトのライフサイクル把握と、OMTMを定めました
- 次回は現在のライフサイクルとOMTMを元に、アクションに落とし込むための方法について記載していきます。
- 次回で「事業計画とのすり合わせ」ステップが終了です.... 長かった....